Rays and Waves

tdswordsworksによる映画・音楽・アート・書籍などのレビューや鑑賞記録。

古井戸 (1987 中国)

古井戸 [DVD]

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中国が大きな存在感を持つ時代が到来したが、僕らには中国のことについての知識があまりにも少ないんじゃないか。たしかに共産主義だとかなんだかよくわからないし、国際ニュースで見かける彼ら中国人の突っぱねるような主張や口調は日本人にとって好印象を持つものではないかもしれない。僕もつまらなそうな国だと思ってたけれど、もっと研究すべきだと思う。

抑圧されてきた中国文化のことを考えると、「中国は文化後進国ではないか」という印象が僕にはあった。でもあるとき、それは単なる仮説でしかないな、それを検証することもちょっとおもしろいなぁと思い、今年の夏ごろから中国の映画や美術に積極的に触れる機会をつくってきた。

北京五輪のおかげか、探せばそういうチャンスは多かった。そのチャンスのひとつが、新宿東口にある小さな映画館K's cinemaで開催中の「中国映画の全貌」だ。




「古井戸」(原題:「老井」)は、100年以上井戸を掘り続けても湧き水に恵まれない山奥の農村の青年が主人公の映画。

水を汲むために険しい山道を10kmも歩かなければいけない村で人々が井戸を掘り続ける様を描く。心情の描写が力強くまた繊細で、20年前の隣国の映画だとすれば普通感じるだろう違和感がなく、すぐにひきこまれた。彼らを不自由にさせるものは、雄大な自然、伝統、地下水の出ない地質、病んだ隣人、与えられた役目、困窮といろいろある。決して愚かではないし行動力もある彼らがこういうものに縛られ悩み苦しむ状況を見つめるのは、何とも言えなかった。工事中の井戸の崩落で命を落とした人物の母親が、井戸掘りの工事を再開するために縄を直す場面が、最も衝撃的だった。

タイトルと異なり展開地味ではないけれど、全体としてドキュメンタリーっぽくも見られる。こういう優等生的なフレーミングは、文化大革命以降四半世紀ぐらいの中国芸術の特徴じゃないかとも思った。