Rays and Waves

tdswordsworksによる映画・音楽・アート・書籍などのレビューや鑑賞記録。

ひゃくはち

D


後輩から強く薦められた。「高校の部活の現実なんてあんなモンすからね」という言葉を添えられて。彼はサッカー部出身だけど、俺の高校の部活動経験は1ヶ月ほど。知らない世界の話だ。陽の当たらない人物を描く物語は好きなほうなので、劇場公開時には観に行きたいと思っていたけれど、結局観ていなかった作品だ。

上の予告編は、キレイに描きすぎだと思う。「愛すべき補欠たち」・・・ほんとうに愛せるか?酒もタバコもやってるんだぜ?高校野球が過剰に神聖化されている中で、補欠にまで高潔さを期待し、「試合に出られなくても懸命にがんばる補欠の青春」を求めて劇場に足を運んだオーディエンスは多かっただろう。それを監督がハナから裏切るつもりだったのはすぐわかるけど、どこまでエグく描くか、一方でフィクションをどれだけ入れれば「映画」として成立するのか、監督の中で迷いがあったんだと思う。ジュノン中村蒼なんてキャスティングしない方がほんとうはリアルなんだけど、それじゃ「映画」としては観るに耐えないものになってしまう。さらに言えば、女性の登場人物の描き方がテキトーすぎて、いかにも頭の悪い男がつくった、芸術性ゼロの作品。


でもさ、俺これ観ながら何度も涙が止まらなくなったんだ。ほんとうに何度も。決して試合に出られないとわかってるのに、新年明けたその深夜に最初にやることがなぜ野球の練習なのか?いや、俺にはきっとわかってるから、泣いてしまったんだ。そうだね、自分しか見えなくなることは誰にもあるし、こうあるべきと思う自分を常に演じているもの。印象的だったのは、「君にとって高校野球って何?」と訊かれた主人公が「考えたこと無かったけど、最後までやり遂げられたら、その質問に答えられると思う」と答えたことだった。


「俺はカッコ悪くないぜ」という男のカッコ悪さを描いた昨年の「グミ・チョコレート・パイン」「俺たちに明日はないッス」とは対照的に、「俺カッコ悪ぃなぁ」という男でもやっぱりどこかでカッコつけてるカッコ悪さを描いた物語。決して、知性で観て(つまり客観的な鑑賞)はいけない作品だ。