Rays and Waves

tdswordsworksによる映画・音楽・アート・書籍などのレビューや鑑賞記録。

郊外のイノチの気配

しかしいつの頃からか、その晴れ渡った荒涼とした光景が、その空っぽの空間それ自体が、モノを分泌する得体の知れぬ茫漠としたイノチをもった風景として輝き始めた。それは長い間の受容の涯てにようやく私の中に立ち現れてきた光景であった。時間さえ止まったように光の中に眠っていた風景が少しずつ体温をもち、意思をもって、時間の外側にリアリティをもって浮かんできた。山裾の現代的な集落も、湾岸にそびえるテクノポリスも、下町を席巻する奇怪なオブジェや建物も、泥の中から浮上した人々や異世界も、徐々に愛おしい風景として浮かんできた。

それはさまざまに街を歩くたび、新しい街が顔と表情をもって見えだしたからに他ならない。そしてどんな異形の地に生まれ落ちようと、その場所が宿命的に各々のふる里であり原風景なのだという痛切な思いが常に私にはある。

そしていつの日か、その原風景がはじけ、そこから新しい感性を伴った人々が現れる時代がくるかも知れない。郊外の地を這うようにして歩き回った私の身体の、うごめく感覚が、そのことを予感している。

(「風の旅人」2007年8月号p.56 内山英明