Rays and Waves

tdswordsworksによる映画・音楽・アート・書籍などのレビューや鑑賞記録。

息もできない

D


主人公は粗暴な男。むしゃくしゃしたらすぐに周りにあたる。しかし不思議だったのは、彼のトラウマとなっている過去の経験が画面に描かれる前から、彼の行動にシンパシーを感じさせたこと。暴力描写ばかりのアクション映画には反吐が出るが、この作品はむしろ、その暴力がさも当然であるかのような錯覚を覚えたのだ。俳優の演技力か設定の妙か。そんなことも少し考えたが、総じて納得感のある物語構成で、完成度が高いということだろう。

この男も、もうひとりの主人公である女子高生も、それぞれ家庭に問題を抱えている。八方ふさがりの現在にイラだっている。しかしそれでも、現状を打開しようと、自分にできることが何かを考え、努力している。よくある、現代生活に慣れて刺激に飢えた男女の逃避行、なんて話には間違っても展開しないのだ。

主人公の男を見守ってきた人たちが一同に集う幸福への期待は、それまでの展開と対照的にロマンス映画的であったが、図らずも暴力の連鎖、不幸の連鎖といったことを考えてしまうようなクライマックスへの展開は、それまでの人物描写から推定できたにもかかわらず、ショックが強かった。