Rays and Waves

tdswordsworksによる映画・音楽・アート・書籍などのレビューや鑑賞記録。

オルセー美術館展2010 「ポスト印象派」

「モネ、セザンヌゴッホゴーギャン、ルソー、傑作絵画115点、空前絶後」というポスターのキャッチコピーは、あまりにもそのまんま。キュレーターのつくるコンセプトや意図が多少なりともキャッチコピーに反映されるのが普通だとは思うのだが、そんな能書きにはお構いなく、画家の名前を連ねるだけでこの傑作群が醸し出す迫力を想起させようという、美術館すらミーハー丸出しの企画展。いや、むしろそれが許されていること自体が、この「キャスティング」の豪華さならではなのだということは、声を大にして言いたいね。パリのオルセー美術館の大改装にあたって実現した、次は無いと考えた方がよい、巡回展です。

モネの「日傘の女性」がフィーチャーされていますが、この企画展のメインはタイトル通り「ポスト印象派」。「感覚を重視して描いた印象派の画家とは対照的に、厳密な理論に基づいて色彩を配置した」スーラが、みんな中学の美術の時間に習ったあの「点描」を考案して、それが一大ムーブメントになっていた様子もわかります。方向性の違いから田舎に篭って制作に励んだセザンヌ。生前はついに日の目を見ることの無かったゴッホ。文明に絶望して向かった未開文化のタヒチで制作を続けたゴーギャン。このビッグネーム3人は、実はまったく違う方向を見ながら、それぞれの「ポスト印象派」を模索していたのだということも、明快に理解できるような構成です。

特に、一時期一緒に暮らしていたゴッホ作品7点とゴーギャン作品8点がひとつの部屋に集められ、左右の壁に飾られていたのは、圧巻でしたが、同時に2人のすれ違いを感じさせるもどかしさがありました。都会にあこがれ夢破れて終わることと、自己顕示せず田舎で心穏やかに暮らすこと。今の日本では、後者の若者、つまりゴーギャン派が増えているような印象があるので、これから30年の間に、ゴーギャンの人気は高まってくるのかもしれません。しかし、この企画展の115点の中で僕が最も好きなのは、ゴッホの「星降る夜」。星の光と街の灯りの色を微妙に書き分けるなど、ゴッホの繊細さが存分に発揮された絵です。中学生でなきゃ描けない題材を、オトナでなきゃ表現できないロマンと、プロでなきゃ持てないテクニックで描いた、とってもほこほこする作品です。

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日経電子版に、この展覧会の一大特集があります。「名画の謎にズームアップ」コーナーで、「星降る夜」やルソーの「蛇使いの女」が拡大で見られるので、必見です。

http://www.nikkei.com/life/culture/page/p=9694E0E3E2E6E0E2E3E2EBE5EBE3