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若者たちに「住まい」を!格差社会の住宅問題

若者たちに「住まい」を!―格差社会の住宅問題 (岩波ブックレット)

若者たちに「住まい」を!―格差社会の住宅問題 (岩波ブックレット)


若年層の労働・所得・住居の実態を統計的・政策的に分析した小論文集。「はじめに」では、本書の意義を次のように述べています。

  • 若者たちが新たに社会的に弱い立場に位置づけられたこと
  • 若者たちが生活を自立させていく上での不可欠な条件である労働・所得・住居への支援・保障がまったくといってよいほどなされていない状況が明らかになったこと
  • 少子高齢化の大きな原因として、若者に対する労働・所得・住居などへの生活保障がなされていないため結婚、子育てをする条件が充たされていないことが、実証されたこと
  • 先進的福祉国家と異なり住居の権利が人権として認められていない日本において、社会的に弱い立場にある人々に対する住宅政策を明示したこと

さらに、本文結論部からの引用を。

  • 日本における若者を対象とした社会政策は、雇用機会の提供を主な目的とした施策に傾斜してきた。しかし、彼らの生活基盤の安定性を保ち、自由な家族形成を促進するためには、適切な住まいが確保されることが大前提である。

日本の住宅政策の問題点を分析し、解決策を提言する内容です。提言は、若年単身者への住宅費用補助、公的住宅の活用など。

標準的な中間層の家族の持家取得に援助を集中した戦後の住宅政策は、それが想定する「標準のライフコース」が瓦解し、時代遅れになっています。多くの単身者が親と同居か、そうでない単身者は民間賃貸住宅を利用していますが、公的住宅利用の国際比較をみると、日本の住宅政策の不在を認識できます。晩婚化や就労の不安定化が拍車をかける少子化への対策として、生活基盤の安定化を図る公的住宅の供給は有効なはずなのに、実際には、民営住宅の供給過多を追い風に、公的住宅の縮小が進んでいます。


本書の主張に対して、民営住宅の需要を減らすようなことをしたら景気が冷え込む、なんて反論もあるのかもしれませんが、若者が実家を出て世帯を形成するのを促進できれば、民営住宅の需要は一定維持できると思います。

また、HR業界との関連で話をするならば、日本における人材流動化の阻害要因として、高コストの住宅費用は隠れた大きなウェイトを占めているはずです。管政権が強く掲げる雇用の安定化に関しても、住宅政策によって就業者側の条件を柔軟にすることで、労働需給ギャップ解消に寄与できると思います。


私自身は、家を出たいけれど住宅費用は抑えたいと思っていて、一人暮らしと実家(埼玉)暮らしを行ったり来たりしているのですが、本書を読むとやはり、早く結婚して公営住宅を狙うか、でなきゃずっと実家に居座るのが得策ということになります。