セッション
僕が、映画好きもしくは音楽好きのどちらか一方であったなら、この作品に対する愛憎に心を掻き毟られることなんてなかったのに。ブーイングと称賛の拍手を同時に送りたい。
僕はと言うと、どちらの意見にもすごく納得してて。
音楽好きの視点に立てば「こんなの音楽じゃねーよ、ただの暴力だバカ」と切り捨てて終わらせられる。僕たちが音楽の演奏にふつう求めるカタルシスは、この映画には期待できない。むしろ冒涜に近いとさえ言える。
けれどね、これ実は、音楽映画の仮面を嵌めたバイオレンス映画なのだわ。映画って、平面×時間の三次元にわたる膨大な説明の情報量を編集工程でいかにコントロールするかに監督の個性と能力が現れるものなので、相当の曲解があっても成立する点が、音楽と比べたときに大きく異なる。スタッフやキャストの力量によって作品の価値が高められることはある(本作のフィーバーはオスカーを獲得したJ.K.シモンズの演技に依るところも大きい)けれど、そこに問題があって致命傷になることはほとんどない。だから鑑賞者によって評価に極端なズレがあるのは当然だし、そこが面白い。
「セッション」なんてニュートラルな邦題がつけられてるけれど、原題は"WHIPLASH(鞭打ち)"。SMプレイだと思って観ると合点がいくはず。激しいプレイを終えてすっかり精根尽きたはずなのになお消化不良感が残るこの感覚は、園子温監督の「愛のむきだし」と似ている。教師と生徒が心を通わせていくヒューマンドラマなんかじゃなくて、罵り傷つけ合いながら相手の存在によって自らの歓びが存立しているということに気づく、愛と距離を置くセックス。そう捉えれば、ストーリー収拾が破綻しまくってる20代の新人監督の粗削りさなんてどうでもよくなる。
本作はサンダンス国際映画祭のグランプリ&観客賞を受賞。ここ数年のサンダンスと僕との相性は抜群にいいみたいだ。