Rays and Waves

tdswordsworksによる映画・音楽・アート・書籍などのレビューや鑑賞記録。

人材の複雑方程式

人材の複雑方程式(日経プレミアシリーズ)

人材の複雑方程式(日経プレミアシリーズ)


人材マネジメント研究の第一人者(とカバーに書かれている)学者による、人事と組織のヒント集。

  • 第1章 問われる日本企業の職場とリーダーシップ
  • 第2章 なぜリーダーが育たないのか
  • 第3章 人と組織の関係をどう考えるか
  • 第4章 働き方革命の始まり
  • 第5章 働きやすさと働きがいを目指して

(第1・2章サマリ)職場は「オモテ機能」(協働・育成・コミュニティ・同質性)と「ウラ機能」(競争・選別・組織・異質性)を併せ持っているが、「ウラ機能」の肥大化で組織のバランスが崩れてしまい、マネージャーに求められる資質も変わったと指摘。難しいのは、「目に見える勤務体系などのダイバーシティ以上に、深層にある価値観や考え方・不満の多様化。」だからこそ、聞き役となって個別の課題に対してできる限りのアドバイスをする「心理学のスキル」が求められると。そして、それをマネージャーに期待しすぎず、マネージャーこそ人事のサポートの対象として捉えるべき、と提言。



読みがいがあったのは第1章と第2章です。ここに主に書かれているのは、職場の機能についてと、リーダーシップをどう捉えるか。気になったのは、ルール重視のコンプライアンス活動がもたらす人材マネジメント上の弊害について。従業員にとって、企業が提供する制度や仕組みは、会社の曖昧なメッセージを解釈するための重要な手がかり。これを読んで、私は以前勤めていた企業の現場を思い出したのですが、あの職場があんなにも短期的利益志向で、人事面でも殺伐としていたのは、従業員を信頼したルール・統制になっていないためで、それが、考えない(問題を受容してしまって解決に取り組まない)社員・習慣を生み出す一大要因だったのではないか?と思いました。同時に、今私が業務で進めているある管理ルールの再整備も、営業担当者の自律的な判断を許容するようなルールでなければ、責任あるスタンスは醸成できないし、結局は取引先とのトラブルを増やすことになりかねないと、注意しようと思いました。

ちなみに第3章以降は、長期雇用と成果主義の連携、職能か職務かという評価単位、ワークライフバランスなどがテーマで、大企業が念頭にあったり、キャリアパスを規定する国内構造を踏まえるとリアリティがなかったりして、個人的にはイマイチでしたが、企業外の人材育成機能が乏しい日本では、成果主義は人材育成と併せなければならない、など、考え方は参考になります。