Rays and Waves

tdswordsworksによる映画・音楽・アート・書籍などのレビューや鑑賞記録。

VEGAS96 / Starboard

VEGAS96

VEGAS96


一聴してすぐさま彼らの魅力に浸った。なにが魅力なのかっていうのは、素人ライターの俺にとってそれを表現するのはたいてい難しいのだけれど、幸いにもCDに付いてきたライナーノーツがヒントになって、言葉が浮かんできた。


3ピースバンド「Starboard」は2002年結成。楽曲はエモ系。歌詞は日本語。前作のインタビューによれば、ライブより音源が大事と言い切っているらしい。この発言は俺にとって新鮮かつ親近感を抱かせるものだった。日本のエモをずっとリードしてきたELLEGARDENが活動を無期限に休止した今、Starboardの探求的でありながらみずみずしい音楽は、今後のエモの有力な方向性を指し示すものではないかと思った。その理由を説明すると次のようになる。

ELLEGARDEN小泉改革に似ている。小泉改革が様々な規制の緩和を目指し、またワンセンテンス・ポリティクスと言われるような有権者にとってわかりやすいメッセージによって支持を得たように、ELLEGARDENは、メロディやジャンルやレーベルに規定されていたロックを解放し、直情的なライブで人気を爆発させ、叙情的でわかりやすい詞とメロディでエモの地平を拡大させてきた。しかし、小泉改革には功罪があった。政治論議の単純化は複雑な問題の本質を見えづらくしてしまったし、圧倒的な政治勢力の傘の下では経験の少ない政治家を鍛えることに苦労した。ELLEGARDENの開拓した畑はライブバンド、ライブキッズを雨後の筍のようにたくさん生み出すことになったが、楽曲そのもののオリジナリティに対するこだわりや、作品としての完成度の追求は置き去りにされてきたように思う。小泉改革の陰で生活保障は後手に回り、今ではようやく、政権交代を引き起こしかねない喫緊の課題として認識されてきた。音楽のパッケージが高齢層やアイドルファンにしか売れなくなった今、ライブマーケットは今後の音楽業界の成否の鍵を握っている。しかし、そのために現在のバンドロック・エモの間に欠落しているのが、各々の情熱のバックグラウンドにある問題意識を明快に提示していくテクニックや、音楽的素養を磨いてパフォーマンスに反映させ、音楽の発展を推し進めていく努力だと僕は思う。

Starboardの話に戻れば、まず彼らのメロディは洋楽も邦楽もロックもそれ以外も聞き込んだ上で作られていて「音楽的アカデミクス」を感じ取れる。崩しのない日本語詞の徹底からは、クオリティ重視の姿勢を見てとれる。今作のタイトルチューンでは流行のダンスナンバーに辿り着いたが、リズムや「間」の繊細さなど、DJ由来のダンスナンバー群とは一線を画すオリジナリティがある。このミニアルバムではパッケージへのこだわりを感じたが、次はどうなるか。10月のフルアルバムリリースを待ちたい。