Rays and Waves

tdswordsworksによる映画・音楽・アート・書籍などのレビューや鑑賞記録。

アメリカと日本

私はアメリカがけしからんと思っているのか。私がアメリカはけしからんなどと仮に思ったところで、ムダもいいところである。アメリカはどう行動するか、大切なのはそれだけである。それを読み取るのが、日本の官僚の仕事ではないか。なぜ読まなければいけないかといえば、損をしないためである。

そもそも京都議定書にアメリカが不参加だったことを、日本側はどう考えたのか。それも明らかではない。日本側を一般の国民とすれば、国民はそんなことにほとんど興味を示さなかったと思う。たかだか炭酸ガス排出の削減は倫理的であり、日本は倫理的に行動したんだから、それでいいんだという程度の認識ではなかろうか。ところが炭酸ガス排出の四分の一はアメリカである。日本人が呼吸まで止めたって、排出量の五パーセントにならない。その日本が排出を減らし、それにかなりの努力と費用をかけることについて、倫理以外にどのていど具体的な意味があるのか。それを議論した話はあまり聞かない。

2050年までに、炭酸ガス排出が半減されない可能性も十分にある。それに向かって努力するのは結構だが、最悪の事態を予測しておくのが政府の義務であろう。そのときに倫理的な人物は、最悪の状況に対して、むしろ思考停止に陥る可能性が高い。なにがなんでも半減だ、などという政策を立てる可能性があるからである。それ自体に大変なコストがかかったうえに、アメリカや中国のおかげで半減できなかったなどという結論になる可能性だってある。地球に破滅的な影響があるというなら、その破滅的状況なるものを、きちんと計算しておくことが大切であろう。そこまで計算してあれば、なにもパニックを起こすことはないからである。アメリカのことだから、最悪の事態はすでに計算していると、私は思っている。まだ稼げるうちに、石油エネルギー関連業界にまず稼がせておけ。それがブッシュ政権の歴史的意味であろう。

(ユーラシア旅行社「風の旅人」2007年8月号p.21,22 養老孟司